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長崎地方裁判所 昭和24年(行)22号 判決

長崎縣北高來郡小長井村大字井崎名六七八番地

原告

森スヱノ

右訴訟代理人弁護士

中山八郞

諫早市諫早税務署内

被告

諫早税務署長 妹尾千〓

右指定代理人

浅木巽

右当事者間の昭和二十四年(行)第二二号差押取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の訴は、これを却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が別紙目録記載の物件について、昭和二十四年六月二十八日爲した差押処分は、これを取消すとの判決を求め、その請求原因として、原告は森喜平の妻であるが、被告は夫喜平が昭和二十二年度分國税六万円を滯納しているとの理由で、税務官吏高柳某をして原告宅に於て原告所有の別紙目録記載物件中箪笥を同年差押え税務署に持ち運ばしめ、その後夫喜平から同年度の税金を完納したのに拘らずその返還もしないのみか淸算もせず、更に昭和二十三年度分國税を滯納しているとの事由で、右物件目録記載の他の動産を差押えている。然しながら該物件は原告の所有で、夫喜平の國税滯納処分のため差押えを受けるべき筋合でないばかりでなく、原告の日常生活上種々障害を受けていて何時競売されるやも判らない状態にあつて、斯様な不法処分を甘受しているときは、何時又如何なる不法処分を受くるやも判らない状況にあるので、國税徴收法による審査手続を経由していては益々著しい損害を生ずる虞れ明白であるから、行政事件訴訟特例法第二條但書の規定に從つて右違法な差押処分の取消を求めるため、本訴提起に及んだと述べ。

立証として、甲第一乃至第三号証を提出し、証人岩崎利明、高柳俊治、久保浩、森喜平の各証言を援用した。

被告指定代理人は、本案前について、主文と同旨、本案について、原告の請求棄却、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、

本案前について、本件訴訟は國税徴收法第三十一條の二及び同條の四の規定に從つて、差押処分のあつた昭和二十四年六月二十八日から二箇月以内に國税局長に対し審査の請求をし、右國税局長の決定に対し不服ある場合始めて訴願又は裁判所に対する行政訴訟の提起か許されているのに拘らず、右手続を経ずして直接本件訴訟提起に及んだのであるから、不適法として却下を免れないばかりでなく、原告主張のような事由は行政事件訴訟特例法第二條但書所定の特段の事由にもあたらない。即ち、差押処分から公売処分に至るまでは公売公告をし、公告の日から十日の期間を経過した後該処分を執行するのを原則としている(國税徴收法施行規則第十九條、第二十二條参照)のであつて其の間同法第三十一條の二に定める審査請求を爲すことができるばかりでなく、右公売にあたつては正当な時價によつて処分されるのであるから、何等経済的に著しい損害を與えるものではない。

更に本案について、被告が原告の夫森喜平の税金滯納のため原告主張日時別紙目録記載の物件に対し差押処分をなしたこと、右森喜平の昭和二十二年度分國税がその後完納されたこと、又右滯納処分として差押えた箪笥一棹を同人に返還せず淸算手続もしなかつたことは認めるが、その他の点については総て爭う。先ず昭和二十二年度所得税については、滯納金九万五千八百九十四円、延滯金一万二千五百四十九円、督促手数料五円、弁償金滯納額千五百五十二円以上合計十一万円であつたのに対し、昭和二十三年十月八日内金五万円の納入がありその後昭和二十四年三月二十七日に至つて漸く完納するに至つたのであるが、昭和二十三年度分についても営業所得がありながら予定申告も確定申告もなかつたので、被告に於て該税額を二十三万七千三百八十円、加算税一万四百四十一円と決定し、昭和二十四年三月十六日限り納付するよう納税令書を右森喜平に送達したがその納付をしないので、更に同月二十日督促をしたのに猶今日まで納税していない。從つて何時でも差押処分に着手し得る状態にあつたのであるが、税務署としてはなるべくこれを避け高柳事務官を同年五月二十五日右森喜平宅に出張せしめたところ、同人は所有船舶を売却し六月十五日限り納入するから差押えを見合すよう懇請したので、右約束の期日に納入あるものと予期していたところ全然これが納入をしないばかりか、葉書による出頭方の從慂に対しても何等回答しないので、前記昭和二十二年度分滯納の際差押えた物件中、箪笥が被告税務署に引揚げられたままで残置されていたので、昭和二十三年度分税金滯納処分のため右箪笥も加えて別紙目録記載の物件に対し差押処分を行つたのである。そして差押物件について公売処分を行つた際は、本人に対し淸算通知をするのに対し、現金納付の際は淸算通知をしなければならない規定はなく、右昭和二十二年度分完納後も運賃の関係で被告税務署に残置されていたもので、今次差押処分は昭和二十二年度分税金滯納について爲されたものであることについては、昭和二十四年五月二十五日高柳事務官が右喜平宅に出張の際戒告されていたのであつて、本件差押処分には何等違法な点はないと述べ、甲号各証の成立を認めた。

理由

昭和二十四年六月二十八日被告が原告の夫森喜平に対する國税滯納処分として、別紙目録記載の物件に対し差押処分を爲したこと及び原告が右森喜平の妻であることについては、当事者間に爭いがない。

そこで被告の本案前の抗弁について審案してみるのに、成立に爭いのない甲第一乃至第三号証と証人高柳俊治、岩崎利明の各証言によれば、原告の夫森喜平は、昭和二十二年度所得税についてこれを怠納し昭和二十三年十月八日内金五万円を、昭和二十四年三月二十七日に至つて漸く残額金六万円をそれぞれ納付して、右滯納額を完納しているのであつて、その間別紙目録中の箪笥一棹の外木材の差押えを受け、右差押処分中該箪笥は被告税務署に引揚げられ同署に於て保管せられていたのであるが、右完納と同時に前記差押処分は解除となつたところ、更に昭和二十三年度分所得税について全然これを納付せず、被告の再三の督促にも拘らずこれが納付を肯んじないので、右税務署に差押処分解除後も残置されていた右箪笥を含めて別紙目録記載の物件に対し、昭和二十三年度所得税の滯納処分として本件差押えが爲されたことが認められるのであつて、証人森喜平、久保浩の各証言によつても右認定を覆えすに足らない。

もしそうだとすれば、被告は通常の手続に從つて本件滯納処分を採つているのであつて、該処分に対し異議ある者は、右処分の日から二箇月以内に國税局長に対し不服の事由を具して審査の請求をし、右決定に対し不服ある者にして始めて行政訴訟の提起を爲し得るものであることは、國税徴收法第三十一條の二、同條の四、及び行政事件訴訟特例法第二條の明定するところであつて、右特例法第二條但書に該当するような特段の事由は、原告の全立証によつても認められないところであるから、本案について判断するまでもなく不適法な訴として却下を免れないものといわねばならない。

そこで訴訟費用の負担については、民事訴訟法第八十九條を適用して、主文のように判決する次第である。

(裁判長裁判官 林善助 裁判官 厚地政信 裁判官 安仁屋賢精)

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